建築家・丸谷博男さんによる連載コラム「光のエッセイ」。様々な視点、切り口で光とは何かを紐解いていきます。
第二弾のテーマは、「光の源と 反射光に 私たちは包まれている」です。
光は何処から私たちの地球にやってくるのでしょうか
多くの人々は太陽から来たといいます。
それは、99%本当だと思います。でも100%ではないはずです。この宇宙に光りを発する星は太陽だけではありません。数限りない光りを発する星があります。
星には二つの呼び方があります。一つは太陽に代表される「恒星」(fixed star)です。シリウス(おおいぬ座α星)、カノープス(りゅうこつ座α星)なども同じ光りを発する星です。なぜ、恒星と呼ばれるのかというと、夜空に輝く星の中でほとんど動かない星という意味で恒星と呼ばれています。肉眼で地球から見える恒星の数は7000個あるそうです。
もう一つの星は、地球に代表される「惑星」(planet)です。太陽系の惑星は皆同じ仲間です。自ら光りを発することは無く、天体から来た光りを反射している星のことです。惑星は、夜空の中を彷徨うように動いているためそう呼ばれるようになりました。地球を廻っている月は衛星と呼ばれていますが、光りの性質から言えば、惑星と同じ光りを反射している星です。
恒星は地球とは違いガスの塊です。そこから発せられる光りは、水素、ヘリウム、リチウムなどのガスによる原子核融合をエネルギー源としています。熱エネルギーは高温部から低温部へと移動するため、中心部から表層へと運ばれ、やがて光りエネルギーとして宇宙へと飛び出して行くのです。それが光りの源なのです。光りは恒星から生み出されているということなのです。とても不思議な感覚ですね。
地球を照らす光と人間が消費している石油エネルギー
地球に太陽から降り注ぐ光りエネルギーは、1.96cal/㎡・分とされています。目に見えないものなのでそうなのかと思うしかありませんね。
まず、太陽から地球に押し寄せてくるエネルギーは、1.7×10の14乗 kwだそうです。それが、大気と雲に反射・吸収され、地上に届くのは50%になります。さらに地表からの反射もあり、最終的に地表に吸収されるのは47%=8×10の13乗 kwということだそうです。(参考資料/地球に入射する太陽エネルギーのエネルギーの流れ 応用物理 50巻4号(1981年))
この地表に届く光りエネルギーなのですが、その50%は私たちの目に感じる可視光線、そして残りの50%は私たちの目には見えない赤外線や紫外線なのです。
月からの反射光も地球に届いています。その光りエネルギーは、太陽から降り注ぐ光エネルギーの50万分の1だそうです。この50万分の1のエネルギーは、私たちが地球で燃やしている石油エネルギーとほぼ同じだそうです。太陽から降り注ぐエネルギーから見れば本当に小さいものですが、それが私たちが消費している石油エネルギーと同じくらいだといわれると、ビックリしてしまいます。
このように太陽と地球と月との関連の中にも直射光と反射光というものがあることがわかりました。そして、地球に注がれた光りエネルギーは、大気圏に突入し、大気に含まれる空気や水蒸気、様々な塵に反射され吸収されながら地表まで届くのです。
地球は太陽に対して、地球の地軸が傾斜し回転しているために光が変化する
私たち地球の暮らしには、昼と夜があり春夏秋冬があります。これは光りの量の変化が原因しています。
地球は太陽の周りを365.242日かけて一周しています。これを公転と呼んでいます。もし地球が自転していなかったら、一年の半分は真っ暗のまま、一年の半分は明るいままとなってしまいます。でもそのようなことは無く毎日朝を迎えれば太陽の光エネルギーを受けることができ、夜になると月や太陽以外の星の光りからエネルギーが届いています。そして、北半球の日本では、春夏秋冬という季節の違いがあるのです。
この原因は、地球の太陽に対する公転面に対して、自転している地軸(南極と北極を結んだ線)が66.6°傾斜していることから生じている現象なのです。(図1)さらに、地球の自転は23時間56分04秒で一回転しています。
どうして夏は暑く冬は寒くなるのでしょう。それは地軸が曲がっているために天空に居る太陽の位置が高い時が日照時間が長くなり夏になるのです。また逆に太陽高度が低い時には日照時間が短くなり冬になるのです。それは太陽高度によって一日における日照時間が大きくなることとともに太陽高度が低いと大気中の塵、水蒸気等に吸収されエネルギーが多くなり日差しが弱まるという原理も働くからです。
ちなみに地球の回転軸と直行する赤道付近の国々では季節変化が少なく常夏という状況になるのです。
地球にはもう一つの現象が特徴的にあります。それは、夕日と朝日が真っ赤に染まる現象です。これも私たちにとっては、何か大変有り難い現象として受け止めているものです。(写真1)
太陽が天空の高いところに居る時には、太陽光は無色です。白い光ともいいますね。ところが、太陽が地平線に近づくと真っ赤な光が私たちの目に届きます。 この原因は、太陽光が通過してくる大気の影響なのです。可視光線には様々な波長の光りが含まれています。それが大気を長く通過して来るうちに短い波長の光りは反射され、長い波長の光だけが私たちの目に届くという現象なのです。長い波長の光、それが赤色の光なのです。
全く景色が異なる北庭と南庭
「日本庭園は北庭が基本・・・」とよくいわれます。「住宅では南に庭をとる」ことが当たり前のようになっていますが、本来はどうなのでしょうか。
日当りを考えれば、南を大きく空けて室内に日射をたくさん取り入れる。確かに冬には良いことですね。しかし、照り返しが強く夏には住み心地の良くない温熱環境になりそうです。また、都市部の住宅街では、南隣の家も南を空けるために北側いっぱいに配置されています。圧迫感もありそうですね。日当り優先なら2階リビングが優れた環境を生み出しますね。
では、「北庭」を考えてみましょう。美しい風景を写真で撮ろうとすると、南の景色よりは北の景色の方が遥かに美しいですね。
光り輝く富士山の風景、真っ白な波頭がと風で飛び散る海の風景、これらは皆光りを受けて反射している北の景色です。反対に、朝日や夕日の劇的な情景、月の砂漠を遊歩する駱駝や馬のシルエット、これらは逆光が劇的です。
住宅の南庭は逆光の景色です。そして、太陽の動きと共に激しく環境が変わって行きます。花木は皆、太陽に向かうため、家からは光りの当たっていない裏側を見ていることになります。地面に当たる日射も目にきつく入り、コントラストのきつい景色となります。(写真2)
一方、北庭は、すべての花木が南に向いているため、一番輝かしい美しい姿を家に居るものからは見ることができます。そして、すべては直射光ではなく反射光となるため、優しく満ちあふれた光りに包み込まれます。コントラストも強くなく、一日安定した光となります。そのために画家や彫刻家のアトリエは北向きが使われてきました。反射光は、照射方向がまちまちなために家の隅々が明るくなります。人の顔に強い陰が無く優しく感じます。
私たちの暮らしの場面で、南向きか北向きかは大変大切な要素となっています。様々な場面で検証してみましょう。
追伸/「光ダクト」は反射を繰り返して、光りの届かない空間に光りを送る仕組みです。その光りは、北庭の光りです。均等に優しく皆様の暮らしを包み込みます。
丸谷博男 プロフィール
1948年9月山梨県に生まれる。東京育ち。東京都世田谷区在住。東京芸術大学美術学部建築科・大学院卒業、同大学非常勤講師を約40年務める。一級建築士事務所(株)エーアンドエー・セントラル代表、一般社団法人エコハウス研究会代表理事。2017年4月より、建築マイスター専門学校・ICSカレッジオブアーツの専任教授/学長として赴任。
東京芸術大学美術学部建築科奥村研究室にて設計・デザイン・エアコンディションニング術を学ぶ。 また、1970年代より奧村昭雄のもとで環境共生、OMソーラー、地熱の利用などに取り組み、現在もこの分野では先進を行き、医療福祉施設・環境共生住宅づくりにも取り組む。 2013年エコハウス研究会を立ち上げ、全国各地で住宅講座を開き、家づくりの技術と人材の育成に努めている。「エコハウス研究会world club」を2013.1開設、現在会員約4000人。日本の住まいの伝統の知恵を科学的に再評価し、現代住宅の課題に様々な提案をしている。
著書は以下の通り。
・住まいのアイデアスケッチ集 (彰国社)
・家づくりを成功させる本 (彰国社)
・設備から考える住宅の設計(彰国社)
・実践木造住宅のディテール (彰国社)
・男と女の建築家が語る家づくりの話(共著、日本工業出版)
・家づくり100の知恵(彰国社)
・イラストによる家づくり成功読本(共著、彰国社)
・そらどまの家(萌文社)
・デンマークのヒュッゲな生活空間(共著、萌文社)
・新そらどまの家(萌文社)
・ZIGZAGHOUSE-箱から住具へ(共著、萌文社)