皆さん、こんにちは。
光ダクト実邸建築計画としてご紹介してきました住宅について、明るさの測定の様子を少しご紹介したいと思います。
今回行った夏季の測定結果をもとに、明るさの測定について解説します。
照度・輝度測定を実施した住宅と目的について
今回、照度と輝度の測定を実施した住宅は、本サイトでも何回かにわたってご紹介しています「日野の家」です。
「日野の家」は、旗竿地という日当たり条件の悪い土地でも、光ダクトを取り入れた設計により明るさを確保している住宅です。
上の写真は、「日野の家」のダイニング西面です。
正面に見える障子のある窓が最も大きくて約1,500mm×1,500mmのサイズです。
家全体の窓の数は9箇所と、通常の住宅と比べても少なくなっています。
これは、設計した若原アトリエのコンセプト。
ただ明るくて開放感があるだけの住宅ではなく、窓によって陰影を作りだし、落ち着いた空間をつくるという設計思想にもとづいています。
写真の中で、植物の上側に見える光は、光ダクトの放光部の光です。
光ダクトは下の図のようになっています。
採光性の良い屋根面の天窓から光を取り込み、内面に高反射率の鏡面材を貼り込んで光ダクトを形成しています。
放光部は、内面の鏡面が見えすぎないように、ルーバー状の仕上げになっています。
今回の照度と輝度の測定は、光ダクトを導入した「日野の家」の明るさを数値で評価することを目的としています。
家の中心となるダイニングと和室の床面照度や光ダクトによって生じる光の変化、窓との輝度対比による光ダクトの明るさなどで、「日野の家」の光環境を評価しました。
照度・輝度測定の方法
測定は、照度計、輝度カメラ、デジタルカメラを下図の位置に配置して行いました。
照度測定は照度計を用い、ダイニングエリアの四隅の床、ダイニングテーブル中央、和室中央の床を測定箇所とし、参照データとして屋外照度の測定も行いました。
輝度測定は輝度カメラを用いて行いました。光ダクトと西面窓の正面付近に配置し、同じ時間における輝度画像を撮影しました。
また、デジタルカメラをダイニングエリアの吹き抜けの2階部分に配置し、ダイニングエリア全体の様子の撮影も行いました。
ダイニングエリアの照度
まずは、晴天時の照度測定結果を見てみましょう。
破線が屋外の照度測定結果で、右軸に対応しています。
8:00で約60,000lx(ルクス)、ピークの12:00ころで約110,000lx(ルクス)と測定され、屋外が晴天であることを示しています。14:30ころから、極端に照度が下がっていますが、これは照度計が影になっていることによる測定ミスです。
室内の照度を見ると、ダイニングエリアの各所では、照度の高い時間がそれぞれ見られますが、約400~500lx(ルクス)として測定されました。
和室は、約150~200lx(ルクス)、ダイニングテーブル上も約400~500lx(ルクス)となりました。
日本工業規格によるリビングの推奨照度は、200lx(ルクス)とされていますので、十分に明るい状態となっていることが示されました。
次に、曇天時の結果を見てみましょう。
屋外の照度は、少し晴れ間が見られた部分もありますが、約20,000~60,000lx(ルクス)と晴天時に比べて低い値となっています。
屋内照度も全体として晴天時よりも低い値となりましたが、ダイニングエリアの床面で平均約200lx(ルクス)、和室で約100lx(ルクス)の照度は得られています。
晴天時と異なり、屋外照度に追随するような明るさの変動となっている様子が見られました。
これは、窓から入る光に直射光による変動が小さいことによる影響と推測されます。
明るさ変化の様子
次に、デジタルカメラで撮影しました室内の様子をお見せします。
まずは、晴天時です。
時間は、上から、10:30、12:00、13:30です。
時間の経過とともに、複数個発生している陽だまりの位置が動いている様子がわかります。これが、光ダクトによる効果です。
通常の天窓でも、直射光による陽だまりは出来ますが、多くは窓の形の陽だまりが1つできるだけです。
さらに、窓と照射空間の距離が遠いため、朝・夕は床に陽だまりが出来ず、壁面の上部、あるいは、出来ない時間がほとんどになります。
光ダクトでは、照射する方向部の位置が低いため、直射光の確度による変化が生じても、ある程度の範囲に陽だまりができます。室内に長時間、まるで屋外のような空間を作ることも出来る、というわけです。
次に、曇天時の様子です。
同様に、時間は、上から、10:30、12:00、13:30です。
晴天時と比べ、全体的にお部屋が暗く、陽だまりもやや薄くてぼんやりした感じに見えます。13:30では、やや晴れ間が見えたためか、陽だまりもくっきりしています。
このように、お天気や時間によって室内の様子が大きく変わる点が、人工照明と自然光の違いです。
ずっと同じ明るさではない変化のある空間を作るためには、日当たりを良くすることが必要であり、日当たりの悪い土地でも光ダクトを使うことで可能となるのです。
輝度で見る光ダクトの効果
輝度測定は、通常の光環境測定ではあまり見られませんが、今回は分析のために測定しています。
照度は、床面や机上面など、光を受ける箇所の明るさを数値化するものですが、輝度は光を発している箇所がどれくらいの明るさかを数値化しています。
測定する方向によっても大きく値が異なりますので、数値で評価することは難しいのですが、光源のどちらが明るいかを比較することができます。
この輝度画像測定により、光ダクトと西側窓の明るさを比較しました。
下の写真は、夏季晴天時の12:00での光ダクトと西側窓の輝度画像になります。
画像は、赤(白)色になるほど明るく、暗くなるほど青色になります。左のカラーバーの数値の単位は、cd/m2(カンデラ毎平方メートル)ですが、詳しい説明は省略します。
光ダクトの方は、オレンジ色~緑色の部分があり、水色の光の筋なども見えます。一方、西側窓の方は、全体が暗い青となっています。
もちろん、12:00での輝度画像ですので、日当たりの状況がまったく異なり、日当たりの良い天窓を利用している光ダクトが明るいのは当然といえます。
あくまで特定の時間での対比ですが、本測定の時間では、光ダクトがダイニング空間の主な光源であるということがわかりました。
次に、夏季曇天時の12:00での輝度画像です。
直射光がないため、極端に強い明るさの部分はありませんが、西側窓よりも光ダクトの方がやや明るい状態であることはわかりました。
西側窓もそこまで大きなサイズではありませんが、周辺環境によっては窓を大きくしても明るくなるわけではありません。そして、壁の方位によって明るくなる時間も変わります。
この結果、周辺環境によらず、出来るだけ長く明るい空間を作ろうと思えば、天窓や光ダクトを用いることが有用となるのです。
まとめ
今回ご紹介いたしましたように、明るさの測定では、照度計や輝度カメラ、デジタルカメラなどで、方位や時期、時間などを考慮して行っています。
あまり、住宅の明るさを測定した事例は見たことがないかと思いますので、是非ご参考ください。
また、明るさに関するご質問もお受けしていますので、お気軽にご相談ください。